まおりぼクリスマス2016。
いつものように多少BLちっくコメディ寄りですが、
エロ度増し増しになっております。
(それなのにR12でも15でも18でもない悲しさ)
ハロウィン、ポッキーに続く「廊下を曲がったら」3作目。
どこまで続くんだということは気にシナーイ。
廊下を曲がったら、大きな袋が落ちていた。
肩に担《かつ》がなければ持てそうもない大きさに、これまたなにやら大量に詰め込まれている。
大掃除のゴミを片づけ忘れたのだろうか。
さすがに城ともなると年末の数日で掃除など無理だから、捨てられるものは早め早めに捨て始めるように、と言い渡してある。素直に応じるとは思ってもみなかったが、毎年小言を言われ続ければそれなりに矯正したのだろう。良い傾向だ。
それにしても。
グラウスは廊下に突っ立ったまま袋を見下ろす。
とんでもない量だ。早めに捨てていればこんなになりはしないのに。
ルチナリスが物を溜め込むのは、生まれ育った環境が環境だけに貧乏根性が骨の髄まで染み込んでいるのだろうから今更なにを言っても無駄だとは思っている。だが、彫像のはずのガーゴイルどもも、何故こんなものを持っているのだ、とばかりの物持ちだったりするから性質《たち》が悪い。
最近は通販が充実しているから、城から出られなくても普通に買い物ができる。それで乳ばかりが大きい女の写真集だの妖しい衣装だのを調達している。
以前、それを見咎《とが》めて没収したところを素晴らしいタイミングであの人に見つかり――
『ち、違うんです! これは! こいつらが!』
『ああ、いいって。わかるよ。そういうの見たい時もあるよ。男の子だもんね(爽』
あれは絶対に私が買ったと思っている。
あの後ことあるごとに弁明を繰り返したけれど、同情するような目を向けられるばかりで……くそう、思い出すと涙が出てきそうだ。
こともあろうにあの人に「乳だけ女が好き」だなどと誤解されるとは!
だから金輪際、奴らの私物には手を出さない。手を出さないかわりに自分たちで捨てさせる。そのつもりだったのに、こんなところに置きっぱなしになっている。
「全く……」
残しておいて、あの人やルチナリスに見つかるとまた厄介だ。
グラウスは袋に手を伸ばし……
その陰に老人が倒れているのを発見した。
行き倒れ?
心筋梗塞だろうか、まさか突然死じゃないだろうな。いやそれよりも。
「家宅侵入!?」
器は城だが家宅には間違いない。
そして器は城だが観光名所よろしく無差別に一般開放しているわけでもない。
どこから入ってきたのだこの老人は!
「う……うう……」
よかった。息はある。
生きているなら自力で出て行ってもらえる。
これで死んでいた日には推定約80kgの図体をどうやって運び出そうか。また、どうやって処分しようかと頭を悩ませる問題が増えるところだ。
それだけならまだいい。捨てるところを見つかって、何故死んでいるんだ、どこの誰だ、挙句、挙動が不審だ署で聞こう、なんてことになったらそれこそ目も当てられない。
「もし、ご老人」
唸るくらいならこちらの声も聞こえるだろう。グラウスは老人に声をかけた。
が。
「お爺ちゃん、お医者様が来て下さったわ!」
どう考えても人などいない方角から声が飛んできた。そこにあるものと言えば、馬鹿でかい袋。ただひとつ。
「………………ええ、と?」
何故袋が。と言うか、喋ったのはこいつか?
また、カボチャと赤箱菓子の悪夢の再来なのか!?
ああそうだ、二度あることは三度あるって婆ちゃんが言っていた。
こんなところにそれらしい袋がある時点で細心の注意を払うべきだったのに。
「お医者様! お爺ちゃんを助けて下さい!」
袋のくせに喋るな。
今更モノが喋ったところで不思議ともなんとも思わないほど耐性ができてしまっているが、それでも一応はツッコんでおきたい。
「いや、私は医者では」
「お爺ちゃんは心臓が弱いの!」
知ったことか。心臓が弱いなら弱いなりに、おとなしく家で猫でも弄《いじ》っていればいいものを。
心臓が弱いからこんな夜中によそ様の家に侵入するとでも言うのか? それが真実なら世の泥棒は皆心臓が悪いのか!?
「ああ持病のシャクが……」
それよく聞くけどシャクってなんだよ!!(怒)
「薬は? 持病があるなら薬くらい携帯しているでしょう?」
「お金がなくて……」
「うう、お前には苦労をかけるのぅ」
「お爺ちゃん、それは言わない約束よ!」
……毎度のことながらついていけない。私のような凡人には理解できない世界だ。
いや、これでも一応は魔族の端くれ。己《おのれ》の存在自体がファンタジーなのにファンタジーを否定してどうなる。ここは多少なりとも場数を踏んでいる私が歩み寄りを……
「では代わりにサンタ役をお願いします!」
グラウスはくるりと踵《きびす》を返した。
「ちょっ、歩み寄るんじゃなかったんですか! 遠ざかってますよ!」
「気にしないでください。気の迷いだということに気がついただけです」
「哀れな老人の最後の望みを叶えてやるとは思わないんですか! この人非人!!」
「持病のシャク程度で死んだりはしません!」
その持病のシャクとやらがなんのことかは知らないが。
って、ついてくるな! 袋のくせに!!
「……タダで、とは言いません。手伝ってくれたらお望みのものをプレゼントしましょう」
背後からの悪魔の囁きにグラウスはぴたりと足を止めた。
「……お望みの……?」
「グラウス様の部屋からエロ本はっけ――ん!!」
翌朝。
城内に轟いたとんでもない一声に、グラウスは叩き起こされた。
「なっ……」
見れば枕元にガーゴイルが1匹。手にしているのは何かが入っていたらしいピンクの紙袋と、もう片手に肌色ばかりやたらと多そうな写真集。
なんだそれは? と聞く暇すら与えてもらえぬまま、細胞分裂のようにガーゴイルがボコボコと増えていく。
「これ何すかぁ? クリスマスぅのぉ、プぅぅレゼントぉぉぉ?」
「年がら年中俺らをシバき倒してる良い子のグラウス様にはサンタが来たっすねぇ」
「でも良い子がこぉぉんなもの貰っちゃあ駄目っすよねぇぇ」
「俺らから没収したエロ本で目覚めちゃったぁ?」
「おっとこのこだもん、ねぇ?」
違う。
その本は私のものではないし。欲しいと思ったこともない。
置いて行ったのはあのサンタ袋だと思うが、何故だ。『私の欲しいもの』をくれるという条件だったはずだ。嗚呼、やはりあのような妖怪の言うことを信じるべきではなかったと、そういうことなのか!?
「でもこの子、ちょーっと坊《ぼん》に似てる」
「ホントだ、この性格悪そうなとことか」
「髪黒いし、目ぇ青いし」
勝手に中を開いて騒ぎ始めたガーゴイルから慌てて本を没収する。これは私の本ではないし、私が願ったわけでもないけれどっ!!
ちらりと目に入った表紙の娘は確かに黒髪青目。似ているかと言えば月とスッポンほどの違いはあるが、妖怪どもに似てる似てると言われるのも、無いとは思うがオカズされるのも腹立たしい。
「これは没収します! 出て行きなさい1!」
「没収もなにもグラウス様の本でしょーが!」
「私のではありません!」
「ひとりで楽しむつもりなんすね!? 不潔よ――!」
ぎゃあぎゃあと文句を言い続けるガーゴイルどもを1匹残らず部屋から蹴りだして、扉を閉めて鍵かけて。そしてグラウスはそのまま床にへたり込んだ。
なんて日だ。
あの袋とジジイにはめられたのか? クソ寒い中サンタの身代わりになって配り歩いた恩人に対して、なんたる仕打ち。
第一、あの人に似ている女などいるものか。それもこんな安い本で脱ぐような女に……。
「……」
床に落ちている、その「安い本」の表紙が目に入った。
……少し……似て、……?
「わ――っ!! グラウス様が鼻血噴いて死んでる――!!」
その後。
ノイシュタイン城唯一の執事が出血多量から復活するまで、数日を要したそうな。
めでたしめでたし。