「魔王様には蒼いリボンをつけて」バレンタイン番外編2016。
novelist様にあります期間限定公開作品・バレンタイン番外編2014と、ホワイトデー番外編2015を踏まえた作品ですが、単独でも読めるかと思います。コメディ強め・弱BL・ちょいエロ(当社比)でございます。
ちなみにURLはこちら。※期間限定のため、読めない時期もございます。
(バレンタイン:http://novelist.jp/69258.html ※BL・R-15)
(ホワイトデー:http://novelist.jp/74774.htm ※弱BL)
バレンタインで贈るのは
チョコじゃない。
バレンタインの時期がきた。
人間界のイベントなどに興味はなくとも、いい加減憶えた。前回は義妹のお手製・物体Xにおくれを取り、あまつさえそれを食べさせられた。
忘れようがない。
だからそのバレンタインと対をなすホワイトデーなるもののときは、義妹に対抗してクッキーを焼いてみた。
結果は……まぁ、よかった……のかもしれない。
全く、自分の無知さが嫌になる。
人間界のイベントにしても、隠喩表現にしても。
これでも秀才で通ってきたつもりだったのに、今までの私はいったいなにを学んできたと言うのだろう。
学校で習ったことが日常生活で役立ったことなどほとんどない。サイン・コサイン・タンジェントなど、全くもって使わない。あれを憶えることで人生で益になったと言うのなら、なにがあったのか聞いてみたい。
だが、今年は。
文献を読みあさり、町の雑貨屋だけではなく百貨店にも足を延ばした。
今年の流行(はやり)、店のおすすめ、購入満足度№1もリサーチ済みだ。決して義妹の物体Xにおくれは取らない。
目の前に置かれた完成品を見る。
ビターチョコでコーティングされた小ぶりのケーキの上に、赤い薔薇と白い蝶。どちらもチョコでできている。
似たようなものを店では1000Gで売っていた。手作りである分、プレミアム感は上だろう。
上だろう、けれど。
本当にこれで大丈夫なのだろうか。
贈り物は完成度じゃない。心だ。と言われれば、どこの誰よりも込めていると自信を持って言うことができる。そう、あの義妹よりも。
しかし、どれだけ込めたつもりでも、受け取った側に伝わるとは限らない。
3
そうでなくとも、町の奥様連中から大量に義理チョコを受け取ってくるのだろう。義理とは名ばかりの、きっとそれぞれに「自分こそ一番」と心を込めているであろうものを。
そんなものが大量に襲ってきたら、私の愛とてその中のひとつに落ちぶれてしまう。
そうだ、インパクトだ。頭の中でなにかが 閃(ひらめ)く。
これだってかなり目を惹くとは思うが、ラッピングしてしまえば他と同じ、ただの小綺麗な包みでしかない。
前回、彼が受け取っていた義理の中にはホールケーキの箱があった。あれはインパクトがある。なにより大きさで。
ならば更に大きなものを作ればいいのか?
しかしあの人は甘いものが苦手だ。事情を知らない奥様方ならいざ知らず、10年お仕えしている自分が苦手なものを贈るというのはどうだろう。
独りよがりでなにも考えていない、などとかえって評価を下げる結果になりかねない。
*:..。o○☆ *:..。o○☆
「で?」
目の前の巨大なボウルになみなみと注がれた茶色の液体に、青藍は怪訝な目を向ける。匂いからすればこれはチョコレートだろうが、それをどうしろというのだろう。
バレンタインに贈られるものと言えば普通は固形。手作りにしろ市販にしろ形は様々だが、それを綺麗にラッピングして渡されるのが普通だ。
液体ならホットチョコレートなるものがあるが、それだってボウルに入れて渡される云(い)われはない。
「ええ、ですからこれをこうしてですね」
生真面目な顔のまま、指でその溶けたチョコレートを掬(すく)い、グラウスはそれを自分の口元に差し出してくる。
どういうことだ?
まさか、この指を舐めろってことか!?
後ずさっても、後ずさった分、ボウルを抱えたまま迫って来る。魔王として勇者と命のやり取りをするときにだって感じなかった言い表しようのない恐怖を、目の前の執事から感じる。
なんですか?
いったいなんの罰ゲームですか?
俺、なにか気に障るようなことしましたか!?
「本来なら身体に塗りたくって舐めてもらうのが正式だそうなんですが」
「……いや、あの、」
残念そうに言うんじゃない。
なにを参考にしたらこうなるんだ!?