2019年12月のお題「祝う」で書かせて頂きました。
スペース・改行・ルビを除く300字。
ジャンル:オリジナル
注意書き:お祝いムード皆無。
竜神は悩んでいた。
村娘を嫁に迎え、今日は祝言の日。
山海の幸と美酒を揃え。錦《にしき》の着物と珊瑚《さんご》の簪《かんざし》を用意し。
古《いにしえ》の慣習に倣《なら》い、娘の村には五穀豊穣を約束した。
なのに娘は1度たりとも笑おうとしない。
「娘よ、何故《なにゆえ》そう暗い顔をする」
「私は村の繁栄のための生贄《いけにえ》。私一人に犠牲を強《し》いた者どもに怨《うら》みを抱《いだ》けども、喜ばしく思うことなどございませぬ」
嗚呼《ああ》。
竜神は娘の胸中を占める深い悲しみを知り、
「ならばその怨《うら》み、消し去ってくれよう」
嵐を起こし、村を壊滅させた。
娘のために。その笑みを見たいが故《ゆえ》に。
「娘よ、怨《うら》みは晴らした」
「いえ、まだ残っております」
娘は竜神を見た。
「貴方《あなた》様が私を見染めたりしなければ」
以降、竜神の行方は知れない。