2020年4月のお題「鞄」で書かせて頂きました。
スペース・改行・ルビを除く300字。
ジャンル:オリジナル
注意書き:しかし何も起こらない
鞄の中からカバが覗《のぞ》いていた。
俺の前に座るサラリーマンが抱えた鞄から。
サラリーマンはカバなど気にせず、黙々とスマホを弄《いじ》っている。
この激込みで座れるということは始発から乗っているのだろうかカバも。
サラリーマンはスマホがあるけれど、カバは何もないから退屈なのだろうか。
スマホを出した後で閉め損《そこ》ねたのか、カバの酸欠防止で開けているのか。仕事か。ギャグか。一服《いっぷく》の朝の清涼剤か。
兎《と》にも角《かく》にも深淵《鞄の中》を覗く時は深淵《鞄の中》からも覗かれているのだカバだけど。
見上げる視線と見下ろす視線は必然的に絡んで、それでもフラグは立たなくて。ってむしろ立ったら怖い。まだ人生捨ててない。
満員電車は今日も走る。
俺とサラリーマンとカバを乗せて。