2019年8月のお題「旅」で書かせて頂きました。
スペース・改行・ルビを除く300字。
ジャンル:オリジナル
注意書き:超有名な児童書に出て来る駅を舞台にしています。
「これはまた」
構内を見渡し、男は歓声をあげた。
何本かの線路には色とりどりの列車が停まり、その間をトランクを積んだカートを押す乗客が行き来する。見上げれば支柱が瀟洒《しょうしゃ》な鳥籠の如《ごと》く張り巡らされ、隙間からは青空が覗《のぞ》く。雑踏の忙《せわ》しさも、ちょっとした小競《こぜり》り合いも、本国のそれとは違って映る。
「で、やはり気になるのは」
「”柱に勢いよく突っ込めば、秘密のホームに辿り着けるのではないか?” ですか?」
「何だ、知っていたのか」
「有名ですから」
有名な児童書《ファンタジー》だ。
大人になれば遠ざかってしまう夢。叶うことのない夢。遥々《はるばる》それを見に来て、我々は現実を知る。
そう、思っていたのだが。
数ヵ月後。
男から届いた封書の消印には例の名が――!