【2016/03】お題:別れ


 

2016年3月(第十九回)のお題「別れ」で書かせて頂きました。

スペース除く300字。

ジャンル:オリジナル

 


【凛】

 

「妖精が冬を追い払ったら、春になるんだよ」

 

 おじいちゃん家の書斎で、

僕は 凛(りん)に童話の1ページを指さした。

 

 花のドレスに身を包んだ少女が杖を振っている。

杖からは光が溢れ、影のような黒フードが逃げ惑う。

 

 この黒フードが冬なのだろう。

冷たくて暗くて嫌な感じだ。

 

 

「まだかな、春の妖精」

 

 カタカタと鳴る窓を見上げる。

木枯らしが中に入れろ、と窓を叩いているようだ。

 

「春、好き?」

「と言うか、冬は嫌い」

 

 凛は、ふぅん、とだけ呟いた。

 

 

「凛? 誰だそりゃ」

 

 おじいちゃんはそう言って目を瞬かせた。

おじさんもおばさんも知らないと言う。

 

 

 

 

 薄桃色の花びらが舞い込む書斎で、僕はあの本を開いた。

 逃げていく黒いフードの下に、

見覚えのある顔がいた。

 

 

【双子】

 

 

 私たちは白樺の森で生まれました。

 生まれてから今まで、片時も離れず育ちました。

 

 

 年頃になった私たちは奉公に出ることになりました。

 身を清め、髪を整え、お化粧を施し、

真新しい着物を着せてもらって車に乗りました。

 

 初めての都会はどのようなところでしょう。

不安で胸が押しつぶされそうになっている私に、

お姉様は「ふたりでなら大丈夫よ」と微笑まれました。

 

 嗚呼、なんと心強い。

私はお姉様の手を握りました。

 

 

 

 しかし。

 奉公先で私は、お姉様と離されてしまったのです。

 すぐ近くで働く彼女を見ながら、そのたおやかなお手を取ることができない悲しみに、

私はラーメンスープの海で溺れてしまいそうでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう。

 私たちの名は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 割り箸。